命を懸けた英語学習。異国で体験した怖い話。
ブロンズの女の子に会うために日々頑張っております。僕の最終目標。
さて、カナダは良いところだよっていつも言っていてもつまらないので今日は趣向を変えます。
あ、俺殺させるかもって思った話を書いていこうと思います。
お化けとかじゃなくてね。あれ、これやばいなって思った時のことを。
あれは肌寒い満月の夜でした。
僕の職場に一人のお客さんがやって来ました。
スタイル抜群で綺麗な青い瞳のその人。まさしく西洋の方だと一目でわかるその人は優しく僕に話しかけました。
「今日は冷えますね」
「そうですね。いよいよ冬がやってきますね」
日本と違い、西洋では客と店員がカジュアルな会話をすることが普通のようです。
週末の予定だったり趣味、家族のこと。お互いの名前を呼び合うのも結構自然だったりするわけです。
多分二、三時間ぐらいたったのかな。
その人は去り際に僕の元へとやって来ました。
「あなたはどこから来たの」
「日本です」
「そうなんだ。日本には行ったこと無いけど良い国だってことは知っているよ」
「良い国です。是非とも行ってみてください」
「もしよかったら今度の休みに一緒にお出掛けしませんか。日本のことを教えてくれないかな」
ネイティブの友達ができることは願ってもないチャンスです。
「ええもちろん」
かくして僕たちは連絡先を交換しその週末に出掛けることになりました。
その時の僕にこんな怖い体験をするなんて予想すらできないわけです。
イタリアンレストランで、僕はその人に会いました。
ランチを食べながらお互いの文化やこれまでの人生について話しました。
お互いの趣味が読書だったこともあり初対面とは思えないほどに会話は弾みました。
純粋にその時間が楽しかったのです。
ふと気が付いた時には午後5時を回っていました。
「そろそろ帰りますか。実はこの後予定がありまして」僕は言いました。
「そうだね。今日はありがとう。もしよかったらまた会えない?」
「もちろんです」
僕たちは再開を約束しお互いの帰路に着きました。
「今日の夜は何してる」
それから二日たった火曜日。その人から連絡が来ました。
僕は仕事が9時に終わることを告げると
「この前旅行に行っておいしいコーヒーを買ってきたんだ。よかったらうちに来ない?」
僕は悩みました。その人の家に行くことに。
一度しか会ったことのない人です。明らかに行くことに躊躇をしている自分がいました。
しかしその傍らでわくわくしてる自分もいました。
まさしく自分の中に悪魔と天使がいる状態でした。どちらが悪魔かはわからないけど迷いました。
結局のところその人の家に行くことを決めた私は、仕事終わりにその人と待ち合わせることになったのです。
仕事が思ったよりも早く終わり待ち合わせ場所に行くとその人は既にそこに立っていました。
「すみません。遅れてしまって」
その人は非の打ち所のない完璧な笑顔で答えました。
「私も今来たところですから。それでは行きましょうか」
僕たちは二人並んでその人の家に向かいました。
その道すがら、一週間のうちにあった出来事をお互いに話しました。
仕事の話から趣味の話、そして日本でのこと。話題は尽きません。
十分ほど歩いてその人の家に着きました。
「大きいですね」
僕は思わず感嘆の声を漏らしてしまいました。
それも無理はないんです。
まるでお城のような出で立ちのその一軒家は想像を遥かに越える迫力をもって僕のことを歓迎しているようでした。
間違いなく家族と住んでいるんだろうなと思いました。
「どうぞ。くつろいでいってください」
案内されるがままに中に入ると先程とは違う緊張を感じました。
二十平米の部屋が二つ繋がっていることにも驚いたんですがそれ以上に生活感がないんです。
綺麗すぎるんです。
そしてその人は一人暮らしのようでした。
玄関に近い方の部屋には一つのソファーがあるだけ。奥の部屋にはグランドピアノが置いてあるだけ。そして壁には大きな絵画が何枚も貼ってある。
心中穏やかではない僕は言われるがまま、そこにただ"置いてある"ソファーの片側に座りました。
落ち着かない僕がきょろきょろ周りを眺めているとその人は二つのコーヒーカップを持ってやってきました。
「どうぞ」
「ありがとうございます。」
僕はコーヒーを一口口に含み、傍の棚にカップを置きました。
「ピアノはよく弾くんですか」
「趣味なんです。君はなにか楽器は弾くの」
「いいえ。僕は音楽に精通していないので」
同じくマグカップを置いたその人は不意に僕の手を握ってきました。
「この前の話の続きを始めようか。もっと日本について教えてくれないかな」
「ええもちろんです」
手を握られている不自然さを優に超える自然な会話の流れに、それについて僕は何も言うことができませんでした。
むしろ手を握ることが西洋の文化では普通のことなのかもしれないなと思い始めてしまうほどでした。
その後も会話が途切れることもなく一時間が経過しました。
「そろそろ僕は帰らせてもらいます。明日も仕事があるので」
「もう帰っちゃうの」
「またカフェで会いましょう」
そう言って立ち上がろうとした僕をその人は抱きしめました。
そして次の瞬間、僕のシャツの中に手を入れてきました。
さすがに驚いた僕はその人を振り払う形で立ち上がりました。
「何のつもりですか」
青い瞳のその男は何も言うこと無く僕のことを見つめていました。
恐怖を感じた僕はその人の家を慌てて飛び出しました。
男の家を出た僕はその恐怖を振り払うように歩き続けました。無心で歩きました。
その刹那かすかに足音が聞こえたのです。
それはその男のものでした。
男は僕のことを走って追いかけてきていたのです。
恐怖が最高潮に達した僕はカナダの住宅街を無心で走りました。
幸いにも足には自信があるので少し経ってから振り返るともうそこにはその男はいませんでした。
実際、その男が何者だったのか今になっては知る方法はありませんが兎にも角にも殺されなくて良かったなと思う訳です。
おしまい。
今となれば笑い話なんですがね。陸上競技やっててよかったなって思います。
ちな、食パン一斤は英語で Loaf of bread って言います。複数計は loaves
それではまた。